2017-01-01から1年間の記事一覧

不順

忘れていいんだよ、って彼が言うの。自分では忘れたと思ってるのにね。体は記憶してるみたいだし、簡単には忘れてやらないって気概も感じるほどだよ。知ってると思うけど、私は肉体的に虐待されたことなんてもちろん無いけど精神的にはそこそこ過酷な環境だ…

不熟

研究室の同期から飲みに行こうと誘われ、二つ返事で快諾した。ただ、もう少し時間がかかると告げると彼は先に飲んでいますと言い研究室を出た。珍しいこともあるものだと思いながら(普段の彼は一人で昼食を取っているのも見たことがない)、パソコンに視線…

幸福

「幸せ過ぎて恐いの意味がわかった気がする」 彼女は僕に入籍の報告をした後に、ポツリと呟いた。僕はその時初めて彼女に恋人がいたこと、その彼にプロポーズされて結婚を決めたことを知らされたので動揺していた。彼女は僕と同じで結婚しないことを選んでい…

共鳴

いつもきっかけは些細なことだ。お気に入りの、明るいとは言い難いブログを読んでいる時とか。 幼少期の実家での出来事がフラッシュバックする。気を張っていた。大人の感情の機微をいつでも拾えるように。感情の揺れに対して適切に対応できるように。だいた…

茶番

「ああ、その時は抱きしめてあげればいいですよ」 先日の彼女の様子を彼に伝えて、返ってきた一言目がそれだった。続けて、「僕はいつもそうしています。それがてっとり早いですよ」とも。 * 私は今抱きしめられている。親でもなく、友人でもなく、恋人でも…

懺悔

「人は自分が救われた方法でしか人を救えない」のならば、私がパートナーから救われることはないのだろう。私は、パートナーに救いを求めている訳ではないからそれでいい。でも、救われていない私をパートナーが許容できるかどうかはまた別の話だった。 そう…

作業

ひとつこなす度に、終わる度に、深い息を吐く。ひとつ終わると楽になる、幸せになる。 「小説や漫画じゃこの辺のいいタイミングで救世主のような人が現れる。でも私には現れない、ここは現実であって紙の上じゃない。13のときにそう学んだ」そう彼女は言った…

昏睡

眠らせてください。 いい天気の週末に、シーツを洗ってお布団を干す。その影で横になり、静かに目を閉じるときの幸福感が好きだった。今日はもう家を出なくていいし、たった今しがた私が行った家事労働のおかげで、今晩の快適な眠りは保障されている。 私を…