師表

「馬鹿な子ほど可愛いって言うでしょ」そう言いながら、彼女は本当に幸せそうに笑う。彼ね、すごくプライドが高いの。そういう人は嫌いなんじゃなかったっけっと問うと、彼女は口元だけで笑った。

 

自分は頭がいいと思ってるし、人付き合いも上手くできてると思ってるのよ。その考えがまず幼いでしょう。しかも自分は現代的な思考・倫理観を持っていて、亭主関白なんかは現代の社会にそぐわないと考えてるし主張もする。妻も仕事をしてるから家事も折半してるし男としての頼りがいもあると思ってる(間違えても家内とは言わない)。相手にもそう思っていて欲しいし、口に出して欲しい。「ああ、あなたは完璧な夫だわ!」

ーーでも、本当は三歩下がってついてくる嫁がいいし、口答えしない女がいい。物知りねと可愛く微笑んでほしい、肌はいつも清潔でキレイであってほしい。僕がこんな控えめな女を好きで選んだではなくて好きになった女がたまたまそうだっただけ、であって欲しい。

それが全部全部透けてるのよ。しかも、自分でその欲望に気づいていない。あくまでも自分の理想像が自分であると思ってる、可笑しいでしょう。

 

そんな人間の方が多いよ、少なからずみんな自分を演じてるよ。私がそう言うと、彼女はまた口元だけで笑う。人間っていうのは、愛しいものね。