幸福

「幸せ過ぎて恐いの意味がわかった気がする」

彼女は僕に入籍の報告をした後に、ポツリと呟いた。僕はその時初めて彼女に恋人がいたこと、その彼にプロポーズされて結婚を決めたことを知らされたので動揺していた。彼女は僕と同じで結婚しないことを選んでいると勝手に思い込んでいたからだ。

「彼が私のことを甘やかすのよ」

そうして欲しいときに抱きしめてくれる、夜一緒に眠ってくれる、私のなんでもない話を聞いてくれる。まるで子どもにするみたいに。私が何かする度にありがとうって言ってくれるの。ご飯作ったり、洗濯畳んだだけで。きっと私には手に入れられないと思ったものが、急に手に入ったの。私に、私の帰る家ができたの。

それはとてもいいことだと僕は言う。彼女にそのような人が現れて本当に良かったと思う。いつ会ってもゆらゆら揺れていたような彼女が精神的に満たされ安定し、僕の目の前にしっかりと存在してくれることが本当に嬉しかった。

今までで一番安心してまたね、を彼女に言える。きっと彼女はもう急に消えたりいなくなったりしない。この世界に、生きている。