憧憬

六月の中旬、午後2時。もっとも影の少ないと思われるそのときに限って、薄暗いそれはそっと身を寄せてくる。学食のカウンター席に腰掛けて、昼食を取っているときだった。中庭の新緑が眩しく、お昼休みが終わりかけの時間帯は学生が急ぎ足で往来する。爽やかに駆けていく彼女たち誰もが、キラキラと輝いて見えた。
「今日はいい天気だね」背中の方からそう声が聞こえ、箸を持ったまま振り向くと手にプリンを持った先輩が立っていた。私は頭を少しだけ前に傾けて挨拶をした。「遅い昼食だ」そう語り掛けながら、それがさも当然で、まるでそこで落ち合う約束があったかのごとく先輩は隣の席に腰掛けた。「珍しいですね、間食なんて」私がそう尋ねると「たまにはね」と言いながらプリンをすごく丁寧に食べ始めた先輩はとても幸せそうで、先程まで私が目を奪われていた女学生にそっくりの横顔だった。
「キラキラしてる」私がそう呟くと、先輩は目を細めて私の方を向いた。ゆっくり一度頷くと向き直り、「今日はいい天気だからねぇ」と下手に語尾を伸ばして答えた。